牛首紬の工程

<工程図>
工程図

 牛首紬の生産は原材料である繭の買い付けから始まります。その工程は繭の選別から機織りまで大きく区分して実に20工程あり、この殆どを手作業で行っています。また、全工程を一事業所の中で一貫して行う、牛首紬の作業形態は、日本の伝統織物産地でも極めてめずらしい産地として注目を集めています。織物産地は永い歴史の中で生存競争に勝つ方法として、良き商品をつくり、且つ生産効率を上げる為に作業工程の分業化を図り、その技を競いあってきました。人間の生き方として、自分の仕事に拘りを持ち競い合う事が許される時代は素晴らしい織物が生まれました。しかし、織物を作り出すことに誇りを持つよりも、金銭に魅力を感じる人々が多くなった時、この分業化にも弊害がある事に気がつきました。その事が牛首紬が見直される要因でもあります。
 絹織物の原点は絹糸に無駄な張力を掛けない事が重要であり、牛首紬の生産工程はこの事を大切にしています。図に工程を一覧表にし、また主要工程の簡単な要点を記述してみました。

玉繭について

 玉繭から牛首紬が作られます。蚕は普通一頭で一個の繭を作りますが、ときとして二頭の蚕が共同で一個の繭を作ることがあります。繭層は厚く普通の繭より大きく外観はりっばです。この繭を玉繭と呼んでいます。二頭の蚕が吐く糸が不規則に重なりあっているため、糸の解れが悪く製糸工の高度な技術を要します。操糸された糸は不規則に重なりあった箇所が絡んで小節になり ますが、この小節が織物になったとき牛首紬の特長である織り面のネップと織り味を作ります。

玉繭について

●製糸(のべびき)

 当産地で使用している機械はもっとも原始的な座繰り繰糸機と呼ばれるもので手挽きされています。糸の材料は経糸に普通繭、緯糸に玉繭を使用します。製糸方法は座繰り繰糸機を使用し、繰糸釜の湯の中へ繭を浮かべ、目的繊度に応じて繭 (経糸は普通繭80個、緯糸は玉繭60個)から糸口をだし一本に合わせ、節こきを通し、ケンネル方式で若干の燃りを掛け、後方の小枠に巻き取ります。この際の湯の温度は微沸騰です。繰糸機械には糸の繊度を測定する器具は一切付帯していない為、製糸工の経験から生まれる技術に任されます。また繊度むらの無い生糸を作ることが上等の紬の生産に繋がることから、工程の中で一番重要で責任を任された作業です。

製糸
●精練

 生糸は図のように二重構造になっており、外側のセリシンを除去し、絹の本来の感触や光沢を生み出す為の作業を精練と呼んでいます。精練、製糸とも使用する水質が絹の優劣に大きく影響しますが、白山山系の伏流水は良質の絹糸を作り出すのに適した成分を含んでいます。練り上がった生糸は丁寧に水洗いし脱水し後「糸叩き」といわれる作業を行います。 この作業により絹糸の生命であるパーマネント状のうねりを取り戻し、糸の配列を整え空気を多く含んだ生きた糸を作り上げます。
 絹糸は図のように一種のタンパク質であるフィプロインとセリシンの二重構造になっています。蚕は繭を作る際顔を左右に8の字に振りながら外側のセリシンを接着剤として繭層を固め形を作っていきます。従って繭から糸を製糸する際は繭を固めているセリシンを適度に溶解して解を良くしますが、精練はセリシンを完全に除去しフィプロインのみにして絹の感触や光沢を生み出します。また、蚕が糸を吐く時の8の字の作業が絹糸にウエープを記憶させます。このウエープを取り戻し「ふっくら」した糸に仕上げるのが精練の大切な作業です。

<絹糸の断面構造>
絹糸の断面構造
●染色

 当産地の染色の歴史は古老の伝承によれば、植物による染色は古くは一般の家庭でも行い、決して難しい技法ではなかったと云われています。現在では堅牢度の問題から植物染料による染めは僅かとなりましたが、藍染めやくろゆり染めなど一部特殊な染色方法は伝承通りに行っています。特に藍染は奈良平安時代の「正藍冷染」と酷似しており貴重な染色方法といえます。また、クロユリの花びらから発色に成功した緑色を含み様々な色も、村の古老の言い伝えを研究した結果成功したものです。

染色
●製織

 当産地の織機は高機と呼ばれるものを使用しています。作業能率を向上させるため緯糸を通す工程を投杼から引き杼装置に改良してあります。したがって、製織に際しては両足交互の足踏による開口、右手に持つ紐の操作で左右に飛ぶ緯糸の供給、左手に持つ競での打込み、この三つの両手両足の動作が一瞬の狂いも無くぴったり合って初めて可能です。この動作は時間を掛けて身体で 記憶するものであり永い経験を必要とします。牛首紬の特徴である、きっしりとした腰のある地風は経糸の張力と緯糸の打込みのタイミングによって生まれるものであり、また動作のくるいから生じる織物の表裏の違いの防止、織り段の無い織物を織る為には一日中一定の力配分をする、等強い持続力、集中力が求められる作業です。
 近年では、引き杼を使用した高機に近い構造に改良した「玉糸機(たまいとばた)」の導入を順次進めています。これにより、繊度ムラの大きい玉糸でも効率的に使用でき、打ち込みが安定し、より細密な染色が可能となりました。玉糸機でも高機同様に職人がそれぞれ一台を受け持ち、一反一反丁寧に織り上げます。それでも緯糸は繊度むらが多く、これらの糸を取り除く熟練の目と手技が牛首紬の品質を決定します。

製織

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